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2012年11月23日 (金)

香長中 読み聞かせ  「新しい人」になるほかない

新しい人になるほかない

 

 もうひとつの本を作ろう、と思いたった時、私は新しい方針をたてました。この本を読んでくださる人たちへのメッセージのもとになるものを、まずはっきりさせよう、そして書き始めることにしよう・・・・・。そしてそのメッセージが、この十年ほど、それこそプールで泳いでいる間にも繰り返しつぶやいてきた言葉なのですが、子どもたち、また若い人たちに、「新しい人」になってもらいたい、ということに固まりました。少なくとも、「新しい人」になることを目指してもらいたい。自分の中に「新しい人」のイメージを作って、実際にその方へ近づこうとねがう、子どもの時そうしてみるのと、そんなことはしないというのでは、私たちの生き方はまるっきり違ってきます。

 

 そして、私が強く念を押しておきたいのは、「新しい人」というのを、新しい・・・人という二つの言葉のつながりとしてでなく、切り離せないひとかたまりの言葉、「新しい人」として、自分の中につかまえてもらいたいということです。また、あわせていいたいのは、こういうことです。いろんな人がいて、それらの人たちのいちいちのあり方に意味がある。それはそうだ、しかしその中の一つに「新しい人」がある。というのじゃない。きみは「優しい人」、また「美しい人」、さらに「頭のいい人」、そして、そこにいる君は「新しい人」、というふうに並べられるものじゃない。「新しい人」というのは、ほかのあり方と比較できない、特別なものなんです。

 

・・・・・今の説明は、われながらうまくありません。書き手自身に、いいたいことが良く分かっていないのじゃないか、といわれるかも知れません。そこで、ともかく皆さんには、いま「新しい人」という言葉をしっかりと胸にしまっておいていただきたいのです。そうすれば、あなたは、これからのある時、本当に心から、ああ、「新しい人」というのはこういう人なんだ、と思いあたることがあるはずなのです。

 

 そしてその時、あなたは「新しい人」の方へ、一歩進みだしているのです。

 

 私は、なにより難しい対立の中にある二つの間に、本当の和解をもたらす人として、「新しい人」を思い描いているのです。それも、今私らの生きている世界に和解を作り出す「新しい人(たち)」となることを目指していき続けていく人、さらに自分の子どもやその次の世代にまで、「新しい人(たち)」のイメージを手渡し続け、その実現の望みを失わない人のことを、私は、思い描いています。

 

私は皆さんが、「新しい人」になるための教育を、自分で自分にするつもりで生きて行っていただきたいのです。もちろん教育は、ほかの人たちから受けるものです。しかし、その土台には、このような教育を受けたいと願うことがある、と私は思います。ここに書いてきた、子どものときからの経験を重ねて、そう考えるのです。 自分で、こういう教育を受けたいと願うことには、あまり経験のない若さ、幼さで考えることですから間違いもあります。しかし、それは微調整することができる間違いなのです。自分で考えたことですから、その間違い自体、なにかの役には立ちます。私など、あれは、間違いだったけれど、面白かった、と愉快に思い出すことがいくつもあります。

 

 「新しい人」になろう、と目指すこと、そして敵意を滅ぼし、和解をもたらすための、「新しい人」になる自己教育を、あなた方がいつも目指していてもらいたい、と考えるのです。

 

 そんなにいうのなら、自分で「新しい人」になったらいい、という反発が、あなた方のl心にわくかもしれません。 そのとおりです。しかし、私はもう老人の年齢まで生きて、自分は古い人だった、「新しい人」になれなかった、と思い知っています。私が一昨年(2001年)、9月11日のニューヨークのテロをテレビ画面に見ながら考えていたのは、まさに、そのことでした。「新しい人」が敵意を滅ぼし、和解をもたらす、とーーーー。

十字架にかかったイエス・キリストをモデルにしてーーーーーー考えたパウロの時代から、もう2000年もたって、なお私ら人類は、それを成し遂げていない!そのしるしを、世界中のいかに多くの人がテレビ画面で見たことでしょう!

 

 そこで私はもう一度、この単純な言葉を書き付けて、皆さんへの呼びかけを結びます。敵意を滅ぼし、和解を達成する「新しい人」になってください。「新しい人」を目指してください。

 

 「新しい人」になるほかないのです。

 

 そしてそのためには、どんなに思いつめても、まず生き延びていなければならない。

それは、これからの新しい世界のための「新しい人」は、できるかぎり大勢でなくてはならないのです。

 

       大江健三郎  「新しい人」の方へ 朝日新聞社  2003年

     ※香長中での読み聞かせ用に、本文を省略しています。

       図書館で読み直してもらいたいと思います。     

 

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